読み書き

本を読んで、血となり肉となるようなことがありました。ものを書いて、いろんな人との出逢いがありました。

「個人的な体験」

 大江自身の体験なのかどうか、知らない。
 ただ、「脳ヘルニア」の赤んぼうが生まれ、親たる主人公はこの子の死を覚悟する。
 覚悟は、絶対的な、そうあるべきものとして、主人公の中で根を張った。

 だが、赤んぼうは生きながらえる。
 主人公は、自分の覚悟に、背徳される。

 主人公は、赤んぼうが生き続けることに抱く圧倒的な絶望、さらに、そのように赤んぼうの死を望んでいたかの如き自分に、懊悩するしかない。

 主人公は、セックスが怖くなる。あの子宮、自分のペニスの入り込むあの女体の暗闇に、自身の人生に災厄をもたらす「赤んぼう」の種子の幻影にとらわれる…

 … 今、ほぼ半分、読み終えたところ。
 主人公の、大学時代に性的交渉をもった「火見子」という女友達が、主人公のセックス禁忌を救う。
 それは正常なセックスではなかった。主人公は、ただ、自分の快楽のためにのみ、火見子の差し出したもう1つの暗い穴へ、その運動を繰り返した。
 主人公は言う、「ぼくは今までセックスの後、嫌悪感と自己憐憫にさいなまれていた。」(だが、今した性行為の後、ぼくは嫌悪感も自己憐憫も抱かなかった!)

 火見子は言う、「あなたがそう感じたってことは、今まであなたがセックスした相手も、そう感じたでしょうね。嫌悪感はいいとして、自己憐憫は最悪よ。」
 主人公は、相手のオルガスムにばかり気を遣って、つまり自分自身は解放されず、自己憐憫を抱いていたのだ。火見子の言う、「最悪のセックス」である。

 ─── 正確な引用でもなく、間違えた解釈かもしれない。
 ただ、やはり、とてつもない力をもった小説で、ほぼ半分読み終え、ぼくの中に残ってくすぶっているものを、ここに書いた。

 しかし大江は、ほんとうに毎日、ウイスキーばかり飲み続けていたのだろうか?